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ベトナムのスタートアップ界隈で気になったことを紹介していきます

ベトナムの組織マネジメントは「美術型」ではなく、「数学型」が良い

ベトナムでの組織マネジメントは難しい。

私たちの組織では本格始動して約6ヶ月、ビジネスチームと開発チーム合わせて13名のフルタイム社員が働いており、まだまだ規模は小さいが、”会社”といった雰囲気がでてきたところだ。日本にいた時には、創業からこの規模に至るまでに1.5-2年程かかった記憶があるが、それと比べると3-4倍のペースで拡大していることになる。まさに東南アジアのスピード感といったところだ。

 

ベトナム組織の拡大とマネジメントの問題について

組織が拡大するにつれて、組織をどう運営していくかというテーマに直面することになる。日本のスタートアップの場合、この規模の会社に飛び込んでくる人間であれば、ある程度文化や価値観を共有し、一枚岩になって突き進むことができる。ビジョン先導型で、多少組織内に問題があろうとも、食い下がってついてきてくれる。

 

しかし、ベトナムではどうだろうか。


労働観やキャリアに対する考え方の違いから、なかなか日本のスタートアップシーンのようなマインドを持つ社員を集めることは難しい。ビジョン先導型というよりも、個人のスキルアップと報酬に優先度がある。このような状況下で、他社のような十分な教育環境はなく、実践でのスキルアップを要求せざるを得ない。高い報酬も与えられない私たちのような組織は、どのように組織を構築し、拡大していけば良いのだろうか。

今回はその方法論について、実践を通じて現在進行形でおぼろげながら学習している解について紹介していきたい。

 

どうやったらリクルートのような組織をベトナムで作れるだろうか

私がベトナムで組織を作る初めに考えたことは、「どうやったらリクルートのような組織をベトナムで作れるだろうか」ということだ。つまり、リクルートの社訓の通り「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という価値観を持つ組織だ。

それは、世界のアウトソース先として注目が集まるベトナムの今の印象とは異なる姿だ。指示通りにこなすだけではなく、各メンバーが自発的に行動し、予想だにしない価値や結果を生み出していく組織を作ろうと思った。なぜなら、ベトナムに存在する日系企業のほとんどは、日本人中心 + 指示通りに仕事をこなしてくれるベトナム人を集めた組織であり、それではアウトソース先としては良いが、ベトナム市場で拡大を目指すサービスを運営する事業者にとっては最適ではないからだ。日本人の器以上にビジネスは拡大しないのだ。言い換えれば、社長と子供達で会社をしているような状態だ。

その状態を否定するつもりはなく、そのスタイルが最適な事業もある。しかし、私の場合は、その類いのビジネスをしたくてベトナムにきているわけではないのだ。この点をきちんと整理し、自分達の組織がどちらのスタイルを追求すべきかを日々意識し、具現化していくのは簡単なことではない。実際にそのような組織にはまだ出会ったことがない。

 

マネジメントは事業モデルから選ぶ

このような想いを持ちながら、日々試行錯誤を続けてきた中で気づいたことがある。

それが、事業モデルによって描く組織の姿も異なるべきだということだ。私たちのビジネスの場合、どのように行動すればゴールに近づけるかがある程度わかっている。それは国の違いはあるにせよ、タイムマシン型のビジネスだからである。自分自身もその領域での経験があるため、大枠ではわかっているつもりだ。
そのような場合、必要なのは各個人に予想だにしないクリエイティビティを発揮することを期待する「創造型」ではなく、仕組みができているビジネスを早期に立ち上げる「確実型」が適していることに気づいた。つまり、今目指すべきチームの姿がみえてきたということだ。当初は日本で創造型で成功体験があっただけに、そのまま持ち込めば通用すると思ったが、そうはいかないことに1-2ヶ月後に気づいた。

 

確実型の組織を作るためには

それでは、確実型の組織はどのように作るのだろうか。ここで指す確実型とは、単にマニュアル通りに動けば良い組織とは異なる。ある程度の仕組みの中で、日々1%の改善を積み重ねられる組織のことだ。そのような組織を目指す際によく問題視されるのは、質の問題だ。日本人が求める要求レベルに何度やっても達しないといった状況だ。オフショアやラボの徹底理由の多くはこれだろう。

私の経験からすると、確実型の組織を作るリーダーは、「数学教師」でなくてはならない。決して、「美術教師」になってはいけない。
数学の教師のように、難解な問題を解くための基礎となる”公式"を教えるのだ。そして、練習問題を重ねることで小さな成功体験を与える。その積み重ねにより、自然と応用が効くようになり、難解な問題ですらあらゆる公式を用いながら自ら解いてしまうようになる。
この考え方はビジネスにおいても同じで、あらゆる職域における公式を教え、若いベトナム人達に初めての成功体験を植え付けていくのだ。それにより、求める質のアプトプットに至るスピードと再現性が高まり、ついには予想だにしない結果までもたらしてくれる。
一方、美術教師の場合、白いキャンバスを渡し、想うように自由に描けという。これでは、まだ成功体験の少ない若いベトナム人は結果を出しづらい。成長ができないと言い残し、他の会社に高給で転職していくことだろう。企業側は「あいつは使えなかった」といって問題の本質に目を向けないのだ。

 

結果的に組織に文化が植付いた

組織には文化が必要だ。

これまで上記で述べた数学型のマネジメントによって、想定以上の結果を獲得してくることができたが、その過程で組織に文化は生まれたのだろうか。
結論から言うと、数学型のアプローチをすることで、一見対極にみえるかもしれないが、組織の価値観や文化を植え付けることができたのだ。
私の場合はリクルート型の組織を目指すことが間違いだと気づいてからは、「あらゆる判断には論理性、それを実証するデータ、そして感情も決して忘れてはいけない」という価値観を浸透させようと方針転換をした。結果はと言うと、公式を教えていく過程で自然と植え付けることができていったのだ。以前は逐一「それはなぜ?」「他の選択肢は考えた?」などといった会話のやり取りをしていたが、今では提案をしてくる前に全てに考えを巡らせている。どのような指摘が返ってくるのかわかっているのだ。会議においても私が話すことがあまりなくなり、全てメンバーで進行してくれる。初めは9割喋っていたが、今ではたまに突っ込むくらいで、基本的には聞いている時間がほとんどだ。"社長と子供達"という組織から、徐々に脱却することができたのだ。

 

今後、組織規模が30名を超えれば、また組織は次のフェーズに移行することになる。その時には各部署ごとに価値観を伝えることができる、いわば分身が必要不可欠で、その人間を通じて宗教のように伝搬していく。これはまた大きなチャレンジであり、避けて通れない道でもある。早くその道を通れるよう、今日も地道に頑張る次第だ。