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ベトナム発の斬新なビジネスモデルで急成長する『iCare Benefits』とは

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皆さんはiCare Benefitsという会社をご存知でしょうか。

東南アジアを中心に拡大する、会社売却経験を持つ創業者が2006年に立ち上げた福利厚生ベンチャーです。あえて福利厚生という言葉を使いましたが、ホームページでは「financial technological retailer」と表現されています。その理由は本記事を読み進めていく中で理解することができるでしょう。

ちなみに、iCare Benefitsに日本人初のメンバーとして参画しているのがテラモーターズのベトナム市場開拓を代表として推進した林 信吾氏。本記事も林氏とのランチの際にお聞きした内容をもとに作成しています。

何をしているのか

ベトナムを中心とした東南アジア各国の工場労働者が、彼らの生活の質を向上させる家電製品やスマートフォンを購入できる仕組みを提供しています。

工場で働く人々にとって、家電製品は非常に高価なもの。キャッシュでは購入できませんし、ローンも組めません。そこでiCare Benefitsが工場で働く人々が金利ゼロの分割払いで購入できる権利を工場の福利厚生サービスとして提供。金利ゼロというのがまた特徴的です。工場で働く人々は従来購入することができなかった高価な家電製品を購入することができるようになり、一方工場としては労働者にその場所で働くメリットを提供でき、離職率の軽減に繋がります。

すでに工場を通じて150万人以上にサービスを提供されており、このビジネスモデルの精密さは実証されています。 サービス紹介動画がありますので、こちらもご覧下さい。

 

何が秀逸なのか

このビジネスを深くみていくと、非常に面白い事実がみえてきます。

工場が導入しない理由がない

通常福利厚生サービスは企業が1名につき数百円から数千円を支払うことで加入することができます。当然ですが、1名につき小額とはいえ1,000名の会社ならばその負担は決して安いものではありません。

一方、iCare Benefitsの場合は工場が負担する金額は一切ありません。なぜなら、製品が売れた販売手数料が収益だからです。無料で自社で働くワーカーに福利厚生を提供できるのです。さらに、iCare Benefitsを通じて購入された金額の最大1%が工場労働者の環境整備のために返金されるそうです。

販売効率が良い

通常小売業者は一般消費者に販売するために店舗を持ち、その分経費がかかります。 EC業者の場合は店舗はバーチャルですが、顧客の集客にはコストがかかります。

一方、iCare Benefitsは注文があった際に各メーカーから取り寄せるため店舗はいらず、在庫リスクもありません。 さらに、1つの工場を営業開拓すればそこで働く数万人の労働者が自動的に顧客となりますので、集客コストが非常に低いのです。

決済の手間もクリア

そもそも日本人のようにクレジットカードを持っていないため現金回収には非常に手間がかかります。 従来は玄関先で現金回収といった流れでしたが不在も多く、そもそもそんな大金を持ち合わせていません。

しかしiCare Benefitsは工場で働く人々の毎月の給与から天引きして回収するため、この問題をクリアしています。

発送効率が良い

通常ECサイトで購入した商品が手元に届くまでには発送料がかかります。この発送料を消費者が持つのか発送元が持つのかに関わらず、日本のように物流が発達していない東南アジアにおいては大きな問題となります。

そのためiCare Benefitsの場合、基本的に会社にまとめて発送、または工業団地近くのiCare Centerという集配所をベトナム全土100箇所に配置しており、そこまで取りに来てもらう仕組みを取っています。少々仕組みは異なりますが、最近では中国大手Eコマースサイトのアリババも、数年の間に10万以上の地方サービスセンター開設を計画しており、インターネットの外での取り組みにも注目が集まります。

数百万〜数千万人の顧客データベース

販売を通じて得た顧客データベースを活用し、データベースマーケティング事業も可能です。 経済成長著しい東南アジアにおいて、さらに消費が活発になるのは確実と言えます。

現在は家電やスマートフォンがメインのようですが、家や車のような単価の高い商品の購入にも活用可能です。東南アジア各国への展開に加え、商品ラインナップの拡大によっても成長が見込めます。

途中で離職して回収できなくなるのでは?

ここまで読み進めてきた方ならば、工場労働者が離職した際の回収リスクについて疑問に思うのではないでしょうか。 つまり、購入した製品の総額を返済する前に離職してしまい、その後連絡が取れずに回収ができなくなるのではないかということです。

このリスクは工場ではなくiCare Benefitsが持ちますので、可能性としてはあり得ます。しかし、通常離職率が高いのは勤務歴の短い労働者であり、1年以上勤務を継続している労働者の離職率は低い。iCare Benefitsでは1年以上の勤務年数を担保に販売をしています。

それでも回収できないケースは発生するようですが、未回収率は売上の1%未満と非常に低い数値のようです。

最後に

ここまで社会性と収益性を兼ね備え、穴のないビジネスモデルはなかなかないのではないでしょうか。初期投資も必要なため参入障壁も高く、簡単にできるビジネスではありません。

ベトナム発の世界に類を見ないサービスとして、ぜひ大きく成功していくことを願っています。